『成功はゴミ箱の中に』

2007年1月24日 第1刷発行

 

著者:レイ・A・クロック、ロバート・アンダーソン

 

発行者:長坂 嘉昭

 

発行所:株式会社プレジデント社

 

【著者紹介】

アメリカ・イリノイ州オーパーク生まれ。高校中退後、ペーパーカップのセールスマン、ピアノマン、マルチミキサーのセールスマンとして働く。1954年、マクドナルド兄弟と出会い、マクドナルドのフランチャイズ権を獲得、全米に展開成功。1984年には世界8,000店舗へと拡大した(現在マクドナルドは世界119カ国に約30,000店舗を展開)。後年にレイ・クロック財団を設立。さらにメジャーリーグのサンディエゴ・パドレス獲得など精力的に活動を行った。本書原題"GRINDING IT OUT"はいまも多くのアメリカの学生に読まれ続けている。

(著者紹介より抜粋)

【オススメ度】  
読みやすい度 ★★★★☆
お役立ち度

★★★☆☆

誰かに勧めたくなる度

★★★★★


いよいよ9月に入り、早いもので、2020年度の上期も残り1ヶ月となりました。

 

上期中はずっとコロナ影響で右往左往してましたね。

 

今後も影響は免れえないとは思いますが、コロナを前提とした新たな日常も少しずつ浸透してきて、ある程度の落ち着きを取り戻しつつあるように感じます。

 

こんな状況だからこそ、今後の生き方や在り方を見つめ直し、今出来ることを一つずつ進めて行きたいですね。

 

 

それでは、今週の1冊です。

 

 

会社の同僚であり、良き友人でもあるH氏にお借りした本です。

 

同氏も読書家であり、互いにオススメの本を紹介しあっている中で、私があまり仕入れにいけておらず、良書が枯渇気味であることを話したところ、貸してくれました。

 

自分では絶対に選ばないであろう本と出会えるという点で、このようなキッカケで読むことも面白いですね。

 

本書は、米国マクドナルドをフランチャイズ展開した創業者「レイ・クロック」の自伝です。

 

著者紹介にもある通り、レイ・クロックは、マクドナルド展開の前にペーパーカップ販売員、ピアニスト、ミキサーの販売員に従事しています。

 

本書では、マクドナルド創業前の生き様についても相当数のページを割くとともに、複数の女性との恋愛模様や別れの様子も記載されています。

 

「マクドナルド創業者」というより、「男レイ・クロック」の生涯が綴られており、良くも悪くも、同人について知れる本となっています。

 

正直に申し上げますと、私自身の価値観と余りに違うために、「勉強になった点」という側面では感想が書きにくかったです。

 

ただ、「世界一成功した」といっても過言ではないマクドナルドのフランチャイズ展開における成功の秘訣や、イチ仕事人としての心構えなど、今まで知らなかったことや刺激を受けた点もありました。

 

今回は少し引用が多くなると思いますが、特筆したい点を3点ご紹介致します。


〜①:これがマーケティング〜

マクドナルドのマーケティングは世界一

 

日本では、マックとセブンが出店している地域には出店すべき

 

こんな言葉を聞いたことはありませんでしょうか?

 

内容を知らないながら、私自身、マックは時間とカネを掛けてマーケティングを行い、良い立地に出店しているのだろうなぁ、といった漠然としたイメージを持っていました。

 

もちろん、現代のマクドナルドのマーケティング手法は企業秘密だとは思いますが、レイ・クロックが行っていた出店候補の探索は、私の想像を遥かに超えていました。

 

少し長くなりますが、引用させて頂きます。

 

(引用、ここから)

役員の中には、地図に売上別に色違いのピンを刺しているものもいる。にはそんな地図はいらない。そんなものはすべて頭の中に入っている。どこにどいう店があるか、フランチャイズオーナーは誰なのか、売上はどのくらいか、問題点は何かといったことだ。(中略)会社で飛行機を購入した当初は、地域の上空を飛んで学校や教会などを探して、店舗の候補地を決めるのに使っていた。上空から大まかな情報を得た後に、陸路で実際に現場へ向かっていた。

今はヘリコプターを使っている。社のヘリコプターを5台使い、不動産開拓をする地域を飛ぶと、それまでの方法では見つからなかった場所を見つけることが出来る。この方法で、たいてい一ヶ月以内に候補地が決まる。(中略)候補地を見つけると、私は車で周辺を回り、角の店に入ったり、近所の人がいくスーパーに足を運んで、地元の人と交流し、彼らを観察する。それらのことで、マクドナルドがその地域でどう成長していくのかの予測がつく。もしもコンピュータの言うことを聞いていたら、自動販売機がズラッと並ぶ店になってしまうだろう。ボタンを押せば、ビッグマックやシェイク、フライドポテトが自動的にでてくるような。(中略)だが、我々は決してそのような店は作つくらない。マクドナルドは人間によるサービスが売り物で、オーダーを取るカウンターの店員の笑顔が我々の大切なイメージなのだ。

(引用、ここまで)

 

私は、既に整備されている地図や人口動態・経済状況などから出店候補地を絞り、オープンした際の業績シミュレーションと投資額の回収可能性で出店を決めているものと思っていました。

 

しかし、レイ・クロックは、そのような「定量的な分析」による出店地決定をしていませんでした。

 

むしろ、「コンピュータの言うことを聞いていたら・・・」とレイが指摘するとおり、定量的なアプローチを敢えて使用しなかったようです。

 

かわりに、現場を上空から眺め、気になった地域に車で向かい、足で歩き、地域の人と会話をする・・・

 

徹底した現場主義で出店地を決めていたことが伺えます。

 

このような現場主義的なアプローチは、ホンダの本田宗一郎氏や、京セラの稲盛和夫もよく主張されています。

 

ファーストフード・車・セラミックといった、全然違う分野の創業者が口を揃えて話す「現場主義」。

 

現在の自分の仕事に置き換えてみても、その重要性は理解できます。

 

例えば、私自身は銀行の振込件数を増加させることを主要な任務としています。

 

取引先企業へのセールス手法として、

 

「振込を当行にシフトして下さい、お願いします。」

 

「シフト頂けたら、単価をここまで下げます。」

 

「貴社は年間●百万円のコストダウンに繋がり、Win-Winの取引です。」

 

こんなアプローチでは、全くもって成績に繋がりません。

 

むしろ、取引先本社に対し、「経理や事務や子会社で、資金繰り・送金周りでお困りのことはございませんか?」とアプローチする。

 

そして、課題や問題点を丁寧に聞き出す。

 

最後に、当方のプロダクトでの解決策がマッチすると、当方へのシフトが実現することがあります。

 

さすがに、お客様の現場に立ち入らせてもらい、課題を一緒に考える機会は少ないです。

 

ですが、他社事例や想像力により、「こんなことでお困りでは無いですか?こんな解決方法に興味はありませんか?」と知恵を絞って仮説を当ててみる。

 

このアプローチが、一番興味をもってもらえます。

 

最終的にお客様企業内で決裁を取ってもらう時には、数字での効果を示す必要があります。

 

しかしながら、目の前の人に興味をもってもらうには、まずは現場に寄り添った提案やストーリーが肝要だということです。

 

私は一部上場企業の担当をしているので、ややもすると現場が見えなくなり、全体主義・定量主義に陥りがちです。

 

であるからこそ、やはり「現場に沿ったビジネス」という視点は今後も重視していくべきであると、改めて感じました。

 

〜 To Do 〜

現場に沿った視点を忘れない。


〜②:本物の人材育成〜

 

フランチャイズビジネスの成否要因の一つに、人材育成が挙げられます。

 

すなわち、どの店でも一定のサービスクオリティを担保するために、従業員教育・店長教育が重要である、ということです。

 

言い方を変えれば、フランチャイザーの提供する付加価値は、店舗のロゴや統一したオペレーションだけではなく、この人材育成のノウハウも多分に含まれると言えるでしょう。

 

人材育成に成功できれば、その店はうまくいき、失敗すれば、悪評を振りまく店になってしまいます。

 

そんな人材育成について、レイ・クロックがどのように考え対応していたかの記述がありました。

 

以下引用しますが、私の想像の5倍は丁寧にやっていました。

 

(引用ここから)

マクドナルドのフランチャイジーになるにはどうしたらいいのか?100%のエネルギーと時間を投入する覚悟があることが何より大切だ。頭脳明晰である必要はなく、高校以上の学歴もいらないが、マクドナルドへの情熱と、オペレーションに集中する力が不可欠だ。(中略)

フランチャイジー応募者は、最初の面接で、マクドナルドがフランチャイジーに求めるものと、与えるものについての説明を受ける。出資費用と、システムに関する説明を聞いた後にもまだフランチャイジーに対する意欲が失われていない場合、応募者の家の近くにあるマクドナルドで働くことが義務付けられる。ここで、応募者の仕事と重ならないよう、夜または週末に働きながら、現場のクルーの仕事とマネジメントの両方を学んでもらう。万が一、マクドナルドのオペレーションに彼の性質がそぐわない場合、それはこの時期にチェックすることができる。この経験と、彼の地域のライセンスマネージャーとの話し合いの結果、4,000ドルのデポジットを支払い、彼がどの地域で店舗を開く可能性が高いかの説明を受ける。(中略)

候補地が挙がってきたら、応募者に知らせる(たいてい登録から2年以内だ)。候補地に納得すると、さらにマクドナルドで働いてもらい、昔の仕事の癖抜きなどをしながら、頻繁に連絡を取り合う。さらに家を売り、店が建つ地域に新しい家を購入し、マクドナルド店でさらに500時間働くことを申し付ける。オリエンテーションや、マネジメント講座にも出席してもらう。店のオープン4~6ヶ月前には、ライセンス保有者はハンバーガー大学に出席し、より高度なマネジメント技術を学ぶ。ここでマネジメントスキルや、最初の客を迎える時に必要なオペレーションのノウハウを知ることになる。(中略)

もちろんこれで終わるわけではない。我々は、エリアマネージャーを通じて、常に彼をサポートしている。(中略)

我々のフランチャイジー第一号、アート・ベンダーは、売上の一部をマクドナルドに支払うのをやめて、独立してレストランを開いたら良いのにとよく言われるそうだ。レイ・クロックにビジネスを教えられたのだから、自分で開くのは簡単なのではないかと。

「レストランを成功させることはできるかもしれない」とアートは言う。「だが、いまマクドナルドから受けているサポートを、個人で調達するということを考えなければならない。それにマクドナルドというブランド。全国にアートの店と広告するかって?やめてくれ。購買力も必要だし、マネージャーのトレーニングのためにハンバーガー大学、商品開発・・・。一人でどうやって賄えっていうんだい?」

(引用、ここまで)

 

どこのマクドナルドに訪れても、統一したサービスを受けることが出来る。

 

マクドナルドに限らず、フランチャイズチェーン店のメリットの一つであります。

 

しかし、そのメリットを安定した品質で展開するためのフランチャイザーの努力・サポート体制は、私の想像以上でした。

 

かように、深くて長いサポートがあるからこそ、飲食業以外からの参戦(=アウトサイダー)でも、しっかりとした店舗運営が出来るものだと、改めて感じました。

 

また同時に、教育を受け、独立店のオーナーとなるフランチャイジー側にも、大きな決断と努力が必要であることもうかがい知れます。

 

「100%の情熱」をもって、出店地域が決まったら当然のように引っ越しも必要とする程の行動力と共に、一国一城の主となるわけです。

 

決して、成功が約束された業務をルール通り淡々とこなすワケではないということです。

 

育成する側もされる側も、必要な熱量と情熱をもってWin-winの関係を築くことが大切であることを、改めて感じました。

 

 

〜 To Do 〜
深くて長いサポートと情熱が、人材育成には不可欠。

〜③:仕事人のしての矜持~

アメリカのみならず、世界中の経営者に尊敬されているレイ・クロック。

 

本書の付録に、同氏を尊敬する経営者として孫正義氏や柳井正氏が登場します。

 

そんなレイ・クロックが、本書の最後にメッセージを残しています。

 

(引用ここから)

やり遂げろ-この世界で継続ほど価値のあるものはない。

才能は違う-才能があっても失敗している人はたくさんいる。

天才も違う-恵まれなかった天才はことわざになるほどこの世にいる。

教育も違う-世界には教育を受けた落後者があふれている。

信念と継続だけが全能である。

(中略)

今のアメリカの若者には、仕事を楽しむ方法を学ぶ機会が与えられていない。この国の社会的、政治的哲学は人生から一つずつ、リスクを取り除くことを目標としているようだ。ダートマスでのスピーチで若い学生たちに伝えたように、誰かに幸福を与えることは不可能だ。独立宣言にもあるように、唯一できることは、その人に幸福を追う自由を与えることだ。幸福とは約束できるものではない。それはどれだけがんばれたか、その努力によって得られる、その人次第のものなのだ。

幸せを手に入れるためには失敗やリスクを超えていかなければならない。床の上に置かれたロープの上を渡っても、それでは決して得られない。リスクのないところに成功はなく、したがって幸福もないのだ。我々が進歩するためには、個人でもチームでも、パイオニア精神で前進するしか無い。

(引用ここまで)

 

このHPでは99%を割愛していますが、レイ・クロックの生涯は、挑戦とリスクテイクが続き、そして、成功と失敗が交互にやってきています。

 

決して、成功だけを続けた「天才」ではありませんでした。

 

私自身が、全ての身を投げ打つかのような挑戦とリスクテイクが出来るかと言われれば、正直、難しいと思っています。

 

ただ、「信念と継続」に関しては、自分の気持ちと努力次第で実現できることであり、また、目指すべき姿であると言えます。

 

先々週ご紹介したアドラー心理学においても、人生を「過去」と「未来」に分けて、過去のトラウマと未来予想図を否定しています。

 

曰く、

 

「過去のトラウマは存在せず、だから我々は過去に捕らわれない。」

 

「未来に薄らぼんやりとした期待を抱き、[今は本気出してないダケ]と現在を否定することは人生の嘘である。」

 

「ただ、[今]に強烈にスポットライトを当て、ダンスを楽しむが如く、今を懸命に生きることこそ人生の幸福である、」と。

 

レイ・クロックとアドラー心理学が共通の結末を迎えるとは思いもよりませんでしたが、両者の主張は、どちらも「今を懸命に生きる」に集約しています。

 

やはり、人間の生き方・在り方というものは、時代、環境、業種などを超えて不変なものなのかも知れない、、、と感じさせます。

 

毎日をただ漫然と過ごすのでは無く、信念と継続を全能とし、精進して参りたいものです。

 

〜 To Do 〜
信念と継続が全能である。

〜まとめ〜

本書の前半80%くらいは、レイ・クロックの半生が書かれており、どの事業でどんな成功があったとか失敗したとか、元妻に愛想を尽かされたとか誰々と恋に落ちたとか、ビジネスで誰に助けられたとか裏切られたとかとか・・・・

 

本書を読む前に、Amazonのレビューをチラ見していたのですが、非常に点数が高く、期待していました。

 

しかしながら、とにかく私の勉強になりそうな記述や場面が無かったため、失望ともに「これは・・・失敗したか?」と正直思いました。

(Hさん、ゴメン!)

 

しかし、最終章になるにつれて、成功者としてのレイ・クロックからのメッセージが増え、読み終わったことにはさっぱりとした達成感がありました。

 

また、孫正義と柳井正の対談や、柳井正による解説など、お得なオマケもついています。

 

全体を通して良書であり、誰かに良書の紹介を受けた時には、是非勧めたくなる一冊でした。

 

Hさん、ありがとう!

 

今夜はマクドナルドを食べに行こうかな(笑) 

〜 To Do 〜
1.現場に沿った視点を忘れない。

2.深くて長いサポートと情熱が、人材育成には不可欠

3.信念と継続が全能である。