2017年01月26日 第1刷発行
著者:江口 克彦
発行者:山縣 裕一郎
発行所:東洋経済新報社
【著者紹介】
1940(昭和15)年2月1日、名古屋市生まれ。故・松下幸之助の直弟子とも、側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり継承者。松下氏の言葉を伝えれるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も、公演に執筆に精力的に活動。また、経済学博士でもあり。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器理事、内閣官房・道州制ビジョン講談会座長など歴任。著書に『ひとことの力-松下幸之助の言葉』『部下論』『上司力20』(以上、東洋経済新報社)『地域主権型道州制の総合研究』(中央大学出版部)『こうすれば日本は良くなる』(自由国民社)など多数。
(著者紹介より抜粋)
【オススメ度】 | |
読みやすい度 | ★★★☆☆ |
お役立ち度 | ★★★☆☆ |
経営の神は哲学者度 | ★★★★★ |
今週末は、東京では雪が降りましたね。
梅や桜が咲き始めたというのに、驚きました。
これで本格的な寒さが和らぎ、春の温かさが訪れると良いですね。
では、今週の1冊です。
少し前にBookOffでまとめ購入したうちの一冊です。
松下幸之助の経営哲学は、経営のみならず、仕事感や人材育成にも多くの気づきを与えてくれるので、繰り返し読みたい良書です。
11月10日に、『松下幸之助の経営問答』 をご紹介しております。こちらは、PHP研究所(松下幸之助が創始した出版社)の著書でしたが、本書は、そのPHP研究所社長を20年以上務められた江口氏の著作になっています。
著者紹介にもありましたが、23年間、松下幸之助と毎日語った、同氏の「愛弟子」にあたる人です。
本のボリュームも質も非常に優れており、一読では十分に理解したとはとても言えません。
付箋も大量についてしまいました。
全てはご紹介し切れないので、強く印象に残った3点をご紹介致します。
とある経済誌に、他社社長の記事が載っていたそうです。
その社長の写真に、「知恵あるものは知恵を出せ、知恵無き者は汗を出せ、それも出来ないものは去れ」という言葉か書かれた額が写っていたそうです。
この言葉を見た松下氏は、
「あかんな、その会社。潰れるわ。」と言ったそうです。
続けて、
「わしならな、『まず汗を出せ、汗の中から知恵を出せ、それが出来ないものは去れ』と、こう言うな。ほんとうの知恵は汗の中から生まれてくるもんや。だから、まず、汗を出さんといかん。まず汗を出しなさい。ほんとうの知恵は、その汗の中から生まれてくるものです。そういうことが出来んものは去れ、ということやな。」
とも話したとのこと。
同じく、奥義を極めた先生から3年間、水泳に関する講義を受けたとしても、すぐに泳ぐことは出来ないだろう、やはり泳ぐには、水につかって水を飲んで苦しむという過程を経ることが必要だ。とも話されたそうです。
全くもってその通り、経験の無い知識は、現場で役に立つ本当の意味での知恵には遠いのだと思います。
日々本部セクションで活動していると、そのような「現場」を知らず、その部署だけで合意が取れている「知恵」が当行全体の意思決定を支配している事象を度々目撃します。
なんともやり切れない思いを抱きますが、自分に出来ることは、現場の意見を切々と訴えることかな、と感じます。
ちなみに、冒頭に出てきた経済誌の社長の会社は、その数年後に本当に倒産してしまったそうです。
「知恵さえあれば、知恵だけ出していれば、汗はかかなくても良い」
これが間違っている証左になります。
自分も汗をかかずに仕事をする性質なので、肝に銘じようと思います。
昭和36年ころ、横浜にあった松下通信工業という事業場は、カーラジオをトヨタ自動車に製造納品していたそうです。
ある時、トヨタから即刻5%の値引きを、そして向こう半年間でさらに15%下げて、合計20%の値引きをして欲しいという申し入れがあったそうです。
貿易の自由化に直面し、アメリカなどの海外自動車に太刀打ちするには、もっと自動車の値段を下げなければならない、それに協力してほしいとのことです。
その頃の通信工業は利益率が3%しかなく、この申し出に応じると大赤字体質になってしまいます。
既存製品の部品や工程などの見直しを必死にやりますが、どうしても20%もの値引きに応じられる改善は難しいようだ。連日会議を続けるも、暗礁に乗り上げてしまったそうです。
そこに、松下氏が訪れ、次のように言ったそうです。
「確かに、あんたらの言う通りやなあ。トヨタさんが要求する値引きは、かなり厳しいな。けど、将来の日本の自動車産業の姿を考えると、国際競争に勝たなければならん。これは一人トヨタさんだけの問題ではないと、わしは思うんや。これは日本のためや。お国のためや。この際、トヨタさんの言うことを、そのまま聞こうやないか。協力しようやないか。そこで、皆に頼みたいことは、このテーブルにある製品はないものと思って、まったく新しいカーラジオを一から造るという発想でやってみてくれや。ここにある製品を全部片づけてくれや。そう、それでいい。この台の上には何もないな?この何にもないところから、トヨタさんの要望通りの製品を、どうしたら造れるか、考えよう。改善改良ではなく、ゼロから、トヨタさんの値段の商品を、性能を落とさず、造ろうと考えようやないか。みんな、考えてくれるか?」
「出来んといえば、それまでや。うちも成り立っていかないし、トヨタさんも成り立っていかん。それでは日本の国も成り立っていかないことになる。国民のためにもならんということや。ここは、君たちも苦しい、しんどいと思うけど、一企業という立場ではなく、国家のことを考えて、発想を変えて、白紙に戻って、これに取り組んでくれんか。」
この松下氏の言葉に感激した社員は、連日連夜の検討・試作・検討・試作を繰り返し、ついに数か月後には、予定通り20%安くして、なお10%の利益が出る製品を作り上げることに成功したそうです。
時に外圧から、破壊的イノベーションが必要になる時があります。
世界は無常であり、ニーズも競合も刻刻と変化しています。
現在の状況が安定している企業こそ、イノベーションが必要な時に、過去の成功と現在の安定が枷となり、初動が遅れるそうです。
松下幸之助という経営者が、いかに優れているかを示す顕著なエピソードです。
松下幸之助がなぜ成功したのか?
本書では、一言では語られていません。
たぎる情熱、部下にも物事を尋ねる姿勢、素直な心・・・
とてもまとめ切れません。
しかし、他の成功者も言っているキーワードがたくさんあります。
・自分の仕事が適職か否か、すぐには分からない。だが、今の仕事に没頭する。そうして何年か経つと、仕事が面白くなる。自分の適職だと感じるまでになる。それほど、仕事に真面目に取り組む。
・その日一日を良く反省せよ。反省とは、悪い行いを悔い改めるだけではない。良かった事は何故良かったのか。さらに良くすることができたのか。悪いことはなぜ起きたのか。どうすれば起きなくできるか。毎日夜寝る前に、少なくとも1時間は時間を取って、己の一日をよく省みるべきだ。
・部下を育てるなら、部下に良く物事を聞く。何度でも尋ねる。そして、部下の報告は最後まで聞く。聞いたことある話でも、最後まで聞く。間違った話でも、最後まで聞く。そして否定しない。
・経営は、素直な心で行う。素直とは、無知ではない。無垢でもない。ただ、自然法則にしたがい、なすべき事をなし、なすべきで無い事はなさない。
・この宇宙は、ビックバンの時から拡張してきた。そして発展してきた。だから、自然法則にしたがえば、自然と経営は成功する。社会は発展する。しかし、自分だけの利益を追求したり、他者を軽んじた行動を取ると、調和が乱れる。自然法則が働かなくなる。衰退が起こる。
・人間は、尊いものである。尊敬すべきものである。誰にでもダイヤモンドがあり、全ての人が王者である。同僚でも部下でも、まずはそういう扱いをしなければいけない。感謝をしなければいけない。その上で、共存していかねばならない。
本書では様々な金言が紹介されています。
そして、稲盛和夫・渋沢栄一・アドラー等、今まで読んだ偉人の本にも、多くの共通点が登場してきます。
自分のような凡人が真似をすることは大変難儀ですが、一つでも多くを実践して生きたいと思います。